イタリア中部マルケ州。アドリア海とアペニン山脈の間に広がる自然豊かな美しい州です。

オペラ作曲家・ロッシーニが生まれたペーザロや、ルネッサンス絵画の巨匠・ラファエッロの故郷ウルビーノからほど近い丘陵地域にペルゴラの町があります。

この町で100年以上の歴史を誇るワイナリーが、ヴィッラ・リージ農園です。

マルケ州ペルゴラの町並み

 

ペルゴラに点在するヴィッラ・リージ農園の畑では、ブドウの他にもヴィショラ・チェリーを栽培しています。酸味が強いため食用には適さないものの、甘い香りが素晴らしく、ジャムなどに加工されるフルーツです。

マルケの農家では古くからヴィショラ・チェリーを赤ワインに浸した伝統酒が造られていました。他州のイタリア人には知られていない、秘蔵酒ともいうべき希少なお酒です。

今では家庭で造られることも少なくなってきましたが、ヴィッラ・リージ農園ではその伝統を守り、しかもこれまでになくエレガントで芳醇な味わいに仕上げたのです。

6月下旬はヴィショラ・チェリーの収穫期

 

ヴィッラ・リージ農園の歴史は約100年前に遡ります。

1912年、トネッリ家の初代アントニオが、小麦畑やトウモロコシ畑が広がるペルゴラの丘に植えたブドウから、ワイン造りを始めました。

アントニオの息子チェーザレが引き継ぐと、彼は生産者としてだけではなくワイン商としても頭角を現し、農園の事業を拡大させます。

チェーザレの息子で3代目のフランチェスコと4代目の醸造家ステファノの親子は、炭鉱閉鎖による存続危機にあった地域文化遺産のブドウ栽培とワイン市場を守り、現在に至るまで農園の伝統を受け継いでいます。

ヴィッラ・リージ農園が所有する土地のひとつ、モンタルフォーリョ地区のブドウ畑。土壌はやや粘土質。

 

3代目フランチェスコ・トネッリは、生物学者で数学教師の妻マリア・イーダ・リージと共に80年代に農園のブランドを確立して、100年続く家族経営の伝統を守ってきました。

特に地元のワイン『ペルゴラDOC』の認定に大きく貢献し、絶滅危惧にあった土着品種ブドウの保護にも積極的に携わります。

3代目フランチェスコ・トネッリ

 

4代目ステファノ・トネッリは、ワイン醸造と食品科学の専門家です。
ブドウ畑のなかで生まれ育った彼のワインへの情熱は、今の農園を強く推進する原動力となっています。

品質、伝統、地域性にこだわり、高度な知識に裏付けされた経験で農園を主導する若きリーダーです。

4代目ステファノ・トネッリ

 

ステファノの妹エレナは大学で建築を学んだ後、フランスで演劇芸術を学び、農園ではイベント企画や広報も手掛けます。

まだ幼いステファノの長女アダは、2代目チェーザレの妹から名前をもらいました。彼女が5代目として農園の未来を紡いでいくことでしょう。

トネッリ家とヴィッラ・リージ農園

 

「ワインとは、その土地の特性をそのまま物語るもの」だと言って、ステファノは話を続けます。

「ワインは芸術。記憶を呼び起こし、夢想させ、その土地の伝統を表現する芸術なんだ。この価値は何世代にも渡って私たちと共にあったし、古代から続くワイン醸造の本質は今後も変わらないだろう」

「ヴィッラ・リージ農園は、伝統への愛情と近年の変革をもって100年続いてきた。味や色、ブーケや余韻、それらの完全なるバランスを追求しながら常に最高水準を求めてきた」

「農業の本質は、持続的に周期的に、四季に応じた作業を毎年正確に刻むこと。ワインを仕上げるために日々を敏感に感じ取りながら、その土地や、自然、私たちを支えてくれる人々への情熱があってこそだね」

「その過程における時間は長すぎても短すぎてもいけない。最も良い出来に仕上がるために必要な”自然の時間”を知ることが重要なんだ」

ヴィショラ・チェリーの花と、緩やかな丘が続くペルゴラの夕暮れ。